経度への挑戦 Longitude

久しぶりにとても面白いテレビ映画を見たので、覚え書きです。
「ブライズヘッドふたたび」の チャールズ・スターリッジ監督・脚本
マイケル・ガンボンジェレミー・アイアンズがダブル主演の歴史・科学ドラマ。

経度を正しく測定するための正確な時計作りのルポとしても面白いし、
「いつも何かにうっとり恋している男」ことジェレミーさんが、ついに無機物である時計に恋する様子を克明に描く、ちょっと変わったラブストーリーとしても傑出した出来です。

イマジカBSにて下記のスケジュールで再放送するので、お見逃しなく
経度への挑戦 [前編] 05月26日(火) 19:00〜20:50
経度への挑戦 [後編] 06月02日(火) 19:00〜21:00

人類は緯度をヴァイキングの時代から分かっていましたが、なんと経度は18世紀になるまで正確に測定する事が出来ず、海難事故が絶えなかったそうです。
経度を正確に測定するためには、揺れる海の上でも正確に時間を測れる時計が必要でしたが、当時ロンドンでもっとも腕の良い時計職人でも、一日に何分も遅れるものしか作れない。それを田舎で大工をしながら独学で時計作りを身に着けた職人が成し遂げてしまう。
ところが最初のうちこそ時計作りの資金を援助してくれた中央の「経度委員会」も、いざ「田舎の大工」が正当な成果として賞金を請求すると、あらゆる難癖をつけて回避し、この駆け引きがなんと50年も続く・・・という、政治ドラマでもありました。

1995年にベストセラーになったアメリカのポピュラーサイエンスの本をもとに、グラナダが制作、チャンネル4で2000年に45分x4話で放映。続いてすぐにアメリカでも放映されたようです。当時はまだぎりぎりVHSが流通していたようで、アマゾンで探すとVHS 4本組のソフトへのレビューも見つかります。

ガンボン演じる頑固な時計職人ジョン・ハリスンのいる18世紀の海洋冒険譚と、ジェレ美さんの繊細な退役軍人が、20世紀にはすっかり忘れ去れていたハリスンの時計を苦心の末に修復していく物語が、秀逸なパラレリズムで語られていきます。

実は原作となったノンフィクションはジョン・ハリスン中心で、人生を投げ打って修復に打ち込んだ軍人については、軽く触れている程度なのだそうです。そのため客観的なエビデンスを求めてなかなかハリスンの功績を認めようとせず、帆船の上での実験を求め続ける「経度委員会」をやや悪者扱いしてしまっているようですが、ドラマ版では実用よりも時計という芸術に人生を捧げた鷹揚な現代人のジェレミー・アイアンズの視点を介しているせいか、もう少し客観的に見ることができます。

海軍ものなので、帆船が好きな方にもおすすめです。むしろホーンブロワ―とかの時代には経度も分からずに航行していたのかと今更ながらに知ってぞっとしました。そういえば皆でやたらと計算しているシーンが沢山ありました(計算が出来なくてなかなか士官に昇進できない乗組員のエピソードが初期にあったような)。あれはサム・ウェスト演じる「ルナティック」天文学者ご推薦の月距法を計算していたのでしょうか。

また、海軍もの=キャストが大勢なので、とにかくイギリスの名優そろい踏みの豪華俳優陣です。
カード遊びの合間にきまぐれにハリスンを助けてくれる、デカダントなサンドイッチ伯爵役のビル・ナイはもちろんのこと、何かとジョン・ハリスンに理解を示してくれる乗組員のキャンベル君を演じていたのがアンドリュー・スコットでびっくりしました。更に驚いたのは、後編になるとこのキャンベルを演じる俳優が突然変わってしまうこと。後に出世して艦長にまでなり、日焼けして男らしい俳優さんに替えられてしまっていました。後半で登場するこのキャプテン・キャンベルは「ハリスンと長年仲が良い」人だという設定なので、おそらく前半のキャンベル君と同一人物だと思います。マッチョで科学になかなか理解を示さない艦内では珍しく、ハリスンが成果を出す前から偏見なく優しくしてくれていた人であり、後年 出世してもハリスンのことが忘れられずに、苦労して探し出してくれた義理堅い人という設定なので、キャストを変えたら意味がないと思うのですが。えーと、若く見える人なので、子役扱い?(こら)

ともあれ、歴史ドラマとしても、あるオタクの趣味への殉教物語としても涙なくして見られない?!傑作なので、明日の再放送の際にはぜひご覧ください。おすすめです。