カラマーゾフの兄弟


本当に読みやすい翻訳でした。一番の強烈キャラ フョードルがあっという間に死んじゃうのに、ぐいぐい読ませる馬力。

が、あまりにも訳文がなめらかすぎて、エピローグの何倍も長い解題で指摘されている点が、本文を読んでいるときには頭に入ってこなかった。誤訳(http://www.ne.jp/asahi/dost/jds/dost121a.htm, http://www.ne.jp/asahi/dost/jds/dost128.htm)や、日本語に訳すのがほぼ無理な原文もあるようなので(アリョーシャの「不気味なほどのオウム返し」とか。でもあれは自分の考えはどうであれ、いったんは同調して心を開かせるカウンセリングテクニックを自然に身につけている人なのかなーと思って読んでいました。あと、「殺したのはあなたじゃない」は誤訳判定ほぼクロだし)

「大審問官」がスゲーらしいと聞いて楽しみにしていたのですが、「スペイン」で「審問官」と聞くと、どうしてもあの人たちが脳裏に浮かんでまいりました。(こら)

むしろイワンの幻覚の悪魔にワクワクし、ゾシマ長老の謎の訪問者のエピソードに胸打たれました。わたくしキリスト教に贔屓目だからかしらん。

翻訳者による解題は、ドストエフスキーの生涯に結び付けようとしすぎ&皇帝暗殺説にこだわりすぎで、どうも論理が破たんしている気が。うーん。

解題で、さすがにそれは間違いなんじゃ?と思ったのは、コーリャ少年の「ぼくたちみんな、死からよみがえって命をえて、おたがいにまた、みんなやイリューシャにもまた会えると宗教は教えていますが、それって本当でしょうか?」発言を
ギリシャ正教がそれを教えることはありえない」
「現代におけるクローン人間の思想に近いプロジェクトを、果たしてキリスト教のそれとみなすことができるのか」と断じているところ。
単に当時のロシアの庶民なら信じていたキリスト教における魂の復活のことなのかなあと思ったのですが。だからこそ正教では今も土葬なんだし。
素直じゃないコーリャも、友達の死に際してさすがに魂の復活を信じてみようと思い直し、アリョーシャに確かめてみたのだと思ったのですが、違うのかなあ。アリョーシャなら決してバカにしたりしないで肯定してくれると信じて、勇気を持って聞いてみたのだと思うのですが。


どうもキリスト教に対する理解がエヴァ作った人たちと大差ない気がするので、まだ根性があったら、そのうち読みづらくても他の訳文で読み直そうかなーと思った次第。「亀山訳点検」をしている他のロシア文学者たちもちょい重箱の隅つつきすぎ?な気がするので、やっぱり英訳で読もう・・・そのうち(こら)。まずは「コレラの時代の愛」と「ファウスト」を読み終わってから〜。