英国王のスピーチ☆☆☆☆

予告編とあらすじから想像した通りの展開でした。クライマックスすらも想像通り。じゃあつまらなかったのかというと逆で、めちゃくちゃ面白かった。最初の一秒から最後の一秒まで、起承転結が一直線の単純さが観客の心を一つにする。筋書きもオチも全部知っていても聞き直したくなる、古典落語の名演みたいな作品。少々王室を美化しすぎなのと、チャーチルってあんなんだったっけ?とか疑問が浮かびますが、まあ、映画なので。

以下ネタバレです


主演の3人がとにかく上手くて、役にハマっていて、脚本・監督が実に上手くまとめているので、コリンとジェフリーの会話シーンの数々を始めとして、末長く英国の演劇学校の教材にされそうな感じ。実際、削る所は削って、9分のスピーチには最大限の時間を配分したり、普通なら見せ場になる戴冠式を白黒映画のフッテージで済ませたりとか、第二次世界大戦開戦前夜の緊張感と「王冠を捨てた恋」を入れる分量の丁度好さとか、冒頭の映画館にまで緊張感が伝染しそうなスピーチ(未満)シーンから始める導入の上手さとか、実に「やるべき事」をちゃんと全部やって、見やすい映画にしてるなあと感心してしまいました。

ひとつ印象的なセリフは、マイケル・ガンボン演じるジョージ5世(主人公アルバート王子の父)の「王室はもっとも卑しい存在になり下がった。我々は今では役者だ」

This Devilish device will change everything if you won't. In the past all a King had to do was look respectable in uniform and not fall off his horse. Now we must invade people's homes and ingratiate ourselves with them. This family is reduced to those lowest, basest of all creatures... we've become...actors!

でも、われらがバーティは役者向きじゃなかった。人前に立つのも人前でしゃべるのも、もう苦手とか言うレベルじゃない。でも逃げるわけにはいかない。
それを助けるのが、役者になりたくても成功できなかった男。しかもこれが実話。あのジェフリー・ラッシュが下手に演じる姿が見られるのも楽しいオマケでした。彼がちゃんと演じるリチャード3世の舞台が見たくなってしまいます。

誰にでも「どうやっても出来ない事」はあるけれど、冒頭の屈辱的かつ本当に効果があるのかも分からない治療法を受け入れてみるバーティことアルバート王子(コリン・ファース)と、それでも誰か治してくれる人を探しに行こうと、普段は足も踏み入れないような地域に一人向かって行くエリザベス(のちのクイーン・マザー/ ヘレナ・ボナム・カーター)の姿は、なんだか不妊治療を受ける夫婦のようにも見えてしまいました。こんな事効果があるの?ここまでする必要があるの?と思いながらも、一緒に乗り越えようとしていく夫婦の姿が、割とさらっと描かれていて好感。これが日本映画だったら、ここぞとばかりにもっと泣かせようとしてきそうです(←へんけん)。

アルバートの心と喉を長年がんじがらめにしてきたしつけの厳しさや乳母からの虐待のトラウマ、王族であるという重荷を、破天荒なやり方で少しずつ取り除いてくれたのはライオネル(ジェフリー・ラッシュ)だけど、同じくらいに楽天的なエリザベスの性格に助けられた部分がとても大きいのですよね。

結局バーティは最後まで障害を完全に克服することはなく、「役者」にはならなかった/なれなかったけど、誠実にたどたどしく話しかける事で、却って求められていた役目は果たす事が出来たんですね。

パブで、職場で、自宅で、国王のスピーチの流れるラジオにじっと耳を澄ますイギリスの庶民たちの姿を見ていると、この頃の王様って無条件で敬愛されてたんだな・・・と時代を感じてしまいました。今でもエリザベス2世は、英国王室の中では抜群に敬愛されているとは思いますが。

それにしても、コリン・ファースは本当にいい意味で、50歳になっても少女漫画!でした。ベルばらじゃなくて、森川久美の方向の。絶滅したと思われていたダブルのスーツが、2011年、2012年シーズンでは復活してしまうんじゃないかと思うほどよく似合っていて、何とも言えず上品でした。スーツ万歳。体格がいいんだけど、一生懸命ジムで鍛え過ぎたハリウッド俳優とは違う、自然な体格の良さ。コリン史上もっとも情けなくてセクシーじゃないキャラクターだったんじゃないかと思いますが、それでも何かが滲み出てきていて。ああ、可愛かったv・・・すみません、なんか単に2時間コリン・ファースの顔をアップで見られ続けて幸せになってるだけのような気もしてきました。ええと、いい映画でしたよ!!(←ぜんぜん説得力がない)。

ワインスタインが無理やり音を消したF-word連発シーンは、案の定、それほど気にするほどのものかね?という感じでした。たしかにあのシーンのためにこの映画を観れる人の数が減るのはとても残念なので、今のアメリカでは編集もやむなしなのでしょうか。
イングリッシュ・ペイシェント、恋に落ちたシェークスピアに続いて、ワインスタインが頑張ってアカデミー賞を取っちゃった作品、という印象もありますが、この3作の中では一番良く出来ている気がします。

蛇足ですが、一番好きなシーンは家に帰ったら王妃さまがお茶飲んでたよ!のシーン。ヘレナとライオネルの奥さん*1、どちらも演技が絶品。そして、これまでの時点で既に結構長い事治療してきたのに、まだ奥さんに話していなかったライオネルの口の堅さが分かって、余計にバーティはライオネルの事が大好きになっちゃったんだろうなあと確信したシーンでもあります。・・・ガーディアン紙はこの映画の事(おっさん)ブロマンスって言いすぎだよね!(とつぜん)

(Source:masterofmice)

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*1:高慢と偏見ジェニファー・イーリーだったんですね!ヴィクトリア朝とメイド研究家の久我さんのおかげでようやく分かりました。あんなミーハーなW.E.の記事にリンク有難うございます。そしてAnthony Andrewsの現在に驚愕・・・