ハンニバル 第1話鑑賞

ちょっとだけよ

ヒュー・ダンシーがウィル・グレアム捜査官、マッツ・ミケルセンハンニバル・レクター博士を演じる、NBCの春の新作連続ドラマ。制作はプッシング・デイジーズのブライアン・フラー。
レッド・ドラゴン」以前の、グレアムとレクターがFBIのために捜査協力するところを延々と*1やり続けて、グレアムがオックスファムの隅っこに放置された古絨毯よりボロボロに擦り切れるまでをじっと見守る、とってもSでMで画面のお美しいドラマです。

怖いけどきれいです。

ケーブルではなくネットワークにしては結構な流血具合ですが、露悪趣味的ではなく、道義上これは見せてはいけないだろうという見せ方はしていません。映画のハンニバルがダメだった方も大丈夫。じゃあ怖さが物足りないのかというとそうでもなくて、レクター博士がただ料理してご飯食べてるだけなのに何でそんなに怖いのというくらいに怖いです。各エピソードの副題がアペリティフアミューズなどコース料理仕立てなので、この「孤独のグルメ」モチーフはずっと続くわけですよ。もちろん最後はデザートはアナタですよ。もう松重豊マッツ・ミケルセンかというくらいに美味しそうにごはんを食べる井之頭五郎。じゃなかったレクター博士

何をどうやってもアンソニー・ホプキンスと比べられてしまうレクター博士ですが、ホプキンスより前にはジェレミー・アイアンズにオファーが行きかけたそうですし、レクター博士はイギリス人だと思い込んでいたけど、実はリトアニア人だったそうですし(wikipediaさんからの受け売り)。マッツさんの容姿も、訛りのある英語も、実はホプキンスよりイメージが近いのかもしれません。これから楽しみに原作を読んでみます。

くたびれてるけど可愛いです。

The AV Clubではマッツさんの演技とブライアン・フラーの美意識が絶賛されていますが(たしかにどちらも素晴らしい)、「このシリーズ、続きも見よう!」という決め手になったのはなんといっても偏屈アスペわんこ捜査官ウィル・グレアムの造形でした。(チエコさんススメてくれてありがとー!)
映画レッド・ドラゴンでのエドワード・ノートンの演技が素晴らしくてとても好きだったのですが、あれとはちょっと違うキャラクターに変更していて、しかもその変更がとても効果的です。

ヒュー・ダンシー版は、完全にくたびれきったアスペルガー気味の人嫌いの男で、FBIのクロフォード(ローレンス・フィッシュバーン)が捜査協力を仰ぎに訪ねてきても「・・・いいけど人に関わらなきゃいけないからやだ」。ようやく捜査に参加しても「人と目を合わせるのはいやだ。極力合わせないようにしてる」。ほぼ初対面のレクターに精神分析されて、あのレクターにピシャリと言い返したり「精神分析しないでくれますか?精神分析されてる時の僕は、絶対に好きになれないと思いますよ」。社会性がゼロに近い、レクターとは別の意味でまたオカシイ人間なんですが、演じてるのがあの地顔がわんこのように可愛いヒュー・ダンシーなので、ちょうどいい塩梅で、まあ要するにもうめちゃくちゃ可愛いです。正直あのヒュー・ダンシーに、ここまで打ちのめされて、なおかつ傷ついた人特有の偏屈なユーモアがある男が上手く演じられるとは思っていませんでした。

中盤で、ほのぼのした直後にウィルの人格のぶっ壊れ具合が表出する名場面があるのですが、完全にネタバレなので自粛しますです。でもこのシーンで完全にノックアウトされました。こんなヒドい設定考えた制作陣もすごいし、これを実にさらっと自然に演じきったヒュー・ダンシーにも拍手ものです。

ところで、ノートン版も「連続殺人鬼に共感する事で殺害動機や方法を捜査する」というあまり有り難くない才能の持ち主でしたが、テレビシリーズではこの才能が映像的にもずっと強調されています。

ちょうどBBC シャーロックで文字をポップアップさせることでシャーロックの超高速推理を視聴者に追体験させてくれたように、このドラマではウィルが現場に足を踏み入れ、犯人が犯罪を犯した時の心理に「共感」して、ウィル自身が惨殺を犯すシーンをスピーディに、適度に凝った美しい映像で投げつけて来る事で、視聴者もウィルの呪われた才能を追体験する事になります。

映像的に美しくて面白いだけでなく、謎解きシーンをシャーロック以上にスピードアップする事にも成功しています。正味42分しかないのに、感情面も謎解きも非常に丁寧に追っているドラマなので、この演出は二重の意味で効果的でした。

「ウィリー・ウォンカのゴールデンチケット」と「マングースと蛇」

ネタバレになってしまうので細かくは書けませんが、偏屈なウィルと、デカダントでディレッタントなレクターが中心人物なので、言い回しの面白いセリフが満載です。医療ものなのにセリフのやり取りの面白さを目当てに見ていたハウスを少し彷彿とさせます。あそこまでの毒舌ユーモアには達していませんが、単なる謎解きやシリアルキラーものではない、見応え聴き応えのあるいい脚本でした。特にマングースと蛇の喩え話は、レクター博士の底知れない腹黒さと「人間を操作することに喜びを感じるサディスト」ぶりが垣間見られて、考えれば考えるほどにぞっとします…。

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*1:マッツさんが映画のオファーを蹴らなければいけないので、そんなに何年もやるつもりはないはず