Effieとジョン・ラスキンとセックスとアートと美しき男たち

先日までLaLa TVで放送されていた、ラファエル前派の画家たち描いたドラマ「セックスとアートと美しき男たち」(原題:Desperate Romantics)。第一話は「ロケンローな新解釈で面白いかも?」と楽しく鑑賞しました。

でも最終話まで見たら、全てをモデルと画家との関係に結びつけすぎで、なんだか「美術史版シエ」という印象。ただし、主人公たちは男なので、恋愛drivenではなくsex driven。しかもこの画家たち、全く美術談義をしません。話す内容は「売れたい。金ほしい」か、「あの女にモデルになってほしい=ヤリたい」ばかり。そして美術談義をしない=ジョン・ラスキンの思想に全く価値がないドラマ、という事になります。

ご存知の通り、ラファエル前派のみならず、そのフォロワーで、より世界的に影響力の大きいウィリアム・モリスのアート&クラフト運動、そしてドラマでは描かれませんでしたが、ナショナルトラスト運動に至るまで、ヴィクトリア朝の「英国的」な芸術運動の思想的バックボーンは産業革命でおざなりにされた工業デザインに警鐘を鳴らし、英国伝統の美術(ゴシック様式)と自然への回帰、文化遺産の保護を訴えた、ジョン・ラスキンの思想そのもの

でも、このドラマで初めてラファエル前派やラスキンについて知った人がいたら、おそらく10人中10人が「ジョン・ラスキン?あの二次元ヲタで、ょぅι゙ょ好きのオッサン?」と思ってしまうんじゃないでしょうか。それはちょっと残念すぎます・・・。

さて、なぜ数週間前に終わったドラマについて今頃こんな事を書いているのかというと、なんとエマ・トンプソンが、ダコタ・ファニングを主演に"Effie"という映画を撮るというニュースが入ってきたからです。エフィー、つまりジョン・ラスキンに顧みられなかった妻のエフィー・グレイが主人公。結婚して5年経っても指一本触れられなかった彼女は、ラスキンとの間に結婚無効を申し立て、ラスキンに擁護されていたラファエル前派の若い画家ジョン・エヴェレット・ミレイと結婚。映画の主題はこの三角関係のようです。

エマ・トンプソンともあろう人が、なぜまたラスキンの思想じゃなくてセクシュアリティについての映画をorz いや、三角関係のドラマと見せかけて、ラスキンの美術評論の数々を紹介してくれるのかもしれません(なんか無理ぽい・・・)。
ラスキンってそんなにすごい人なの?と思われた方は、まずはセイゴウ先生の簡潔なブックガイドをご一読下さい。トルストイガンジーも、ラスキンをリスペクトしてたんだぜ! いや、エラソーな事言ってますが、わたしも新宿のメイドカフェで買った「建築の七燈」が積読です、ごめんなさい(そろそろ、だいこくさんに男性疑惑が出そうな予感)。

ちなみに、Effieのキャストは、ジョン・ラスキンにエマの夫で若さの源ことグレッグ・ワイズ。

左から、ジョン・ラスキン本人、グレッグ・ワイズ、トム・ホランダー
 

おお、ラスキンとワイズよく似てますね。ドラマ版のトム・ホランダーは好きな役者さんですが、演出上矮小化しすぎていて、ラスキンにはミスキャストだったと思います。

ジョン・エヴェレット・ミレイ役は、当初オーランド・ブルームが予定されていたそうですが、エマの描いた脚本に「それ俺の書いた"The Countess"にそっくりじゃん!」とブロードウェイで活躍するアメリカ人作家が訴訟を起こした関係で降りてしまい、「トワイライト・マークII」風の人になりました*1

Effieは当初シアーシャ・ローナンキャリー・マリガンが演じる予定だったそうですが、ダコタ・ファニングひとりに。
まあ、少女時代がダコタちゃんで、いざ結婚しようとしたらドリュー・バリモアになってた、とかだったら、ラスキンじゃなくても「どうしてこうなった」頭を掻き毟りたくなるかもしれませんが、現行のプロダクションでは、ダコタちゃん以外にエフィーを演じる女優さんの名前が上がっていません。一人で少女時代も結婚後も演じるのでしょうか。ハイティーンとはいえ妖精のような美少女のダコタちゃんがエフィーでは、ラスキンが妻を忌避する理由に全く説得力がなくなってしまうというか、ダコタちゃんですらダメってどんだけ真性なんだ、ジョン・・・というかなり救いのない展開になってしまうと思うんですが。エマさん、このあたりどう考えているんでしょう・・・。

Desperate Romanticsでのエフィー&ミレイコンビ。ドラマ全体はあれれ?という感じでしたが、この二人はハマリ役だったと思います。

にほんブログ村 テレビブログ 海外ドラマへ

*1:Tom Sturridgeさん。パイレーツ・ロックをまだ見ていないので、認識できていません、ごめんなさい